福岡地方裁判所 昭和57年(レ)2号 判決
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【判旨】
そこで、本件賃貸借契約が明らかに一時使用のためのものであるか否かにつき判断する。
(一) <証拠>によれば、本件賃貸借契約の成立に至る経緯につき次の各事実が認められる。
(1) 控訴人は、もともと本件建物を昭和四四年七月ころから門野に賃貸していたものであつて、同人が無断で入江に本件建物を使用させたことから、控訴人が右両名を被告とする明渡請求訴訟を提起し、控訴人勝訴の後、控訴人と入江との間で起訴前の和解により、期間を昭和四六年六月一日から三年間とする賃貸借契約が成立した。
(2) その後、被控訴人は入江から本件建物の営業を譲り受けて、昭和五〇年三月ころ、控訴人に対しその賃借を承諾してほしい旨申し出た。控訴人は、一旦は拒絶したものの、被控訴人の懇願を容れ、三年間に限つて本件建物を賃貸することにして起訴前の和解をなした。
(3) 三年間の期間満了後、控訴人は被控訴人に対し本件建物の明渡を請求したところ、被控訴人は、負債が残つており本件建物を明渡すと生活できないからもう少し賃貸してほしい旨懇願した。そこで、控訴人は、被控訴人に対し、更に三年間本件建物を賃貸することとして本件和解をなし、本件賃貸借契約が成立した。
右のように、本件賃貸借契約は、もともと被控訴人の入江からの無断転借ないし無断賃借権譲受に端を発したものである。
(二) また、前掲<証拠>によれば、控訴人は、本件和解の申立の趣旨において、被控訴人に対し、本件建物の明渡を猶予する旨の和解の勧告を求めていることが認められる。
(三) さらに、控訴人は、その本人尋問において、本件賃貸借契約の賃料(相当損害金)を従前どおり月額六万五〇〇〇円としたのは、被控訴人が三年後には必ず本件建物を明渡す旨承諾したからである旨供述する。
(四) しかし、他方、<証拠>を総合すれば、次の各事実を認めることができ、右各事実に照らすと、前記(一)、(二)の各事実から本件賃貸借契約が一時使用を目的としたものと認めることはできず、また前記(三)の控訴本人の供述はにわかに措信し難い。
(1) 本件和解条項の第一項の文言は、控訴人が被控訴人に対し本件建物を賃貸するとなつており、月額六万五〇〇〇円の名目も賃料とされているなど、明渡猶予の趣旨が明示されていないこと
(2) 本件賃貸借契約の期間は、被控訴人を賃借人とする従前の賃貸借と同じく三年であり、特に明渡猶予ないし一時賃貸借を窺わせるような短期の定めとは解されないこと
(3) 控訴人と入江との間の賃貸借契約も、もともと門野から入江への無断転貸ないし賃借権譲渡に端を発し期間も三年であるが、右賃貸借の期間満了後約一〇箇月が経過した時被控訴人からの申出でで控訴人は被控訴人の無断転借を知つたものであることに照らすと、入江との賃貸借の期間満了時控訴人は入江に対して期間満了を理由に明渡を請求した形跡はなく、入江との右賃貸借は、一時使用目的だつたとは認められないこと
(五) 以上のように、本件賃貸借の文言、期間、成立に至る経緯等を総合するも、本件賃貸借が一時使用を目的とすることが明らかとは認められない。
(田中貞和 水上敏 河野泰義)